- 我は死神なり、世界の破壊者なり
- 先見の明を持つ者
- 日本で年間3000人以上もの死者
- 子宮頸がんで死亡するのは全員女性
- メディアの偏在報道
古代、自然界の猛威や寒さに怯える人類を哀れみ、ギリシャ神話のプロメテウスは人類に「火」を渡した。というプロメテウスに因み、”pro”(先に、前に)+”mētheus”(考える者)には「先見の明を持つ者」「熟慮する者」という意味が派生しています。火の使用は有益ではあるが、使い方ひとつで多くの破壊を招く。近代、この類の火の使用に関して、科学的に1回の「トリニティ実験」だけで効果を実証したのは原子爆弾開発プロジェクトだったマンハッタン計画です。それでもこの時のリーダーであったオッペンハイマーは「我は死神なり、世界の破壊者なり」という懺悔に似た気持ちを吐露しています。また、その後「熟慮しながら」進められていた原子力の使用も、ミスが重なり福島原発事故のような大火傷を負いました。
前置きが長くなりましたが、臨床医学は純粋科学ではないため、有益性の進展とは乖離した非科学的な状況で立ち往生してしまうことがあります。ここでは未だに「積極的な接種の推奨は控える」という訳の分からない日本語で宙に浮いている子宮頸がんワクチンについて見てみます。
ポイントを上げると、①日本で年間3000人以上もの死者を出す子宮頸がんに対して、有効性が高いワクチンが存在するのにも関わらず活用されていない。②これは過去に同ワクチンを接種した後に有害と思われるケースが発生し、被接種者の家族等が団体を結成し提訴、かつメディアが偏在報道をしたため。とされています。
そこで実際、私が子宮頸がんワクチンを初期に多く接種していた経験から浮かび上がるこのワクチンの特異性を検証していみます。
1) 各ワクチンの痛さの違い:
接種方法(皮下注射か筋肉内注射)、使用する針の太さ及び尖端部の角度と造形、そしてワクチン自体の体内での刺激性に依存します。例えばインフルエンザワクチンは厳密に言うと針を刺す時よりもワクチン液を注入する時に痛がります。これはインフルエンザワクチン液の刺激性が他に比べて強いからです。逆に麻疹・風疹ワクチンは刺激性が弱いためスッと入り痛がることは稀です。
余談ですが、子宮頸がんワクチンのような筋肉内注射はかなり痛いのですが、「昭和は遠くなりにけり…」の昭和ならば、文句なしに臀部を摘まんで打てば問題がなかったと思います。が令和の世の中でそれは無理。麗しき思春期のお嬢さんの肩を露出してもらうのにも四苦八苦。教科書通りに肩峰から3横指下のところ=三角筋中央部を、筋繊維に沿って索状に摘まんで打てれば支障は少ないのに、保護者も含めシャツのボタンひとつ外すのにも嫌悪感を現すのが風習になってしまっているのが現在です。
(2)子宮頸がんワクチンに関する説明:
他の、例えば10代の子にB型肝炎ワクチン接種する際は、事前に保護者がワクチン接種の目的、理由を簡単にでも被接種者に説明されているものですが、子宮頸がんワクチンは例外的です。そもそも子宮という用語をあたかも放送禁止用語のように扱う家庭もあるだろうし、頸がんの「頸」が全体像(男性の亀頭部に存在するヒトパピローマウイルスが性交時に、子宮の入り口=頸部に濃厚に接触することにより感染が成立する)を把握している保護者ですら説明を宙に浮かせます。しかし、以下の説明は不可欠です。
- 子宮頚がんは、すべての悪性腫瘍の中で最も古くから原因がヒトパピローマウイルスだと確認されているが、今でも日本で年間3000人が死亡している。
- ヒトパピローマウイルスは男女に感染するが、子宮頸がんで死亡するのは全員女性。
- 子宮頸がんは性行為によって男性ウイルス保有者から感染させられ発症する。よって、性行為未経験者は感染せず子宮頸がんにはならない。
- 故に、性行為未経験時、あるいは経験数の少ない時期に子宮頚がんワクチンを接種するのは有益である。
ただ、これら具体的な特異性以外に科学的な論証が説明されていたとしても、子宮頸がんワクチンを打たれた後から娘がヘンになった。激痛のトラウマが夢にも出てくる方は本当にそう感じているのだと思いますし、保護者からすれば災難極まりない。
例えば、月にロケットを飛ばすには古典物理学で間に合うけれど、GPSで箱根に行くには量子力学が必要、と説明されても知らないヒトには全く腑に落ちません。つまり子宮頸がんワクチンが極めて有益で普及されるべきだと論理的に説明し得ても、それを痛くて危険なモノだと思っている方を納得させるのは不可能であり、それは邪悪な火器の如くな存在であると思惟し吹聴するのもまた誠実なのであります。
つまり、プロメテウスの火は怖そうだけれども、とても役に立つと理解した者たちだけが、それを使えばよいというフェーズに今はいるのです。